先進国でなぜ人口が減少するのか?
対象読者
先進国で人口が減少する原因を経済学的に知りたい人
概要
下記の切り口を整理したうえで論じる
(アジア)vs(先進国)
①人口増加の仕方を比較
②経済発展と人口増加を「人口転換」命題に添って考察
③所得水準と出生率の因果関係
→既存の先進国(高い所得水準)とアジアの貧困国の双方をまとめ、人口が減少する理由を証明する
- アジアの「人口爆発」はいかにしておこったか、出生率と死亡率の動態変化を観察しながら、このことについて検討する
- 先進国の歴史的経験と比較すると、アジアの人口増加にはどのような特徴があるのかを考える
- アジアは外生的要因(ex.植民地、医療整備など)によって人口爆発が起こった。人口爆発を支持する先行条件(ex.増加した人口を吸収する経済の発達)が満たされないままなされたので、所得水準が低いままとなっている。
- 低所得国は、独立人口(15歳〜64歳までの生産年齢人口)が養う従属人口(15歳未満の年少扶養人口)の割合が高い。
- Q.アジアの一人あたりの所得水準と年配従属人口係数との関係を見るとどうなるのか?
- 仮説:年配従属人口が増加すると社会サービスの拡充や国内需要の減少により一人あたりの所得水準が減少するのでは無いか?
- 既存の先進国では先行条件を内生的に満たしたこと(ex.工業発展など)で人口爆発が起こった。そのため、アジアの貧困国に比べて人口増加率最高値が低い。理由は所得水準が高くなり医療整備が進み、死亡率が減少したと同時に出生率の低下にもつながるからである。
- 一国の人口増加率は、経済発展の初期段階では高まるが経済発展がさらに進むと減速するという傾向がある。一国の経済発展と人口増加とがいかなる関係にあるかを「人口転換」命題に沿って考察する
- 人口転換の模式は、高位安定期(出生率高い、死亡率高い)→前期増加期(出生率高い、死亡率減少)→後期増加期(出生率減少、死亡率が下限に近づく)→低位安定期(出生率と死亡率が低水準)
- 一国の人口の長期趨勢は増加率が低い時期→高い時期→低い時期となるのが多くの実証研究から高い現実妥当性を持つとされている
- 所得水準の上昇にともなって出生率は低下する。なぜそうなるのかを説明するものが「出生の効用・不効用」仮説である。この仮説を援用した「ライベンシュタイン・モデル」を理解する
- 効用>不効用のとき子供を出生する
- 効用(経済発展とともに減少する)
- ①所得効用(貧しい社会では子供も労働の担い手である。新たな子供がもたらす所得)
- 経済が発展するにつれて要求される技能水準が高くなるため、子供の労働が難しくなる
- 所得水準の上昇は子供が得る所得への家計の依存度を減少させる
- ②消費効用(子供をある種の消費財としてみる。子供を産み育てることによる充足感)
- 経済発展すると他の効用が高い代替品が出てくる
- ③老後の安寧保障効用(社会保障制度が整備されていない貧しい社会では子供が年老いた自分を面倒見てくれる。)
- 社会保障制度が充実すると、老後の安寧子供に頼る事が少なくなる
- 所得水準が高くなると、自らの貯蓄を切り崩し生活できる
(資料)渡辺利夫. 開発経済学入門. 3版,東洋経済新報社,2010 を修正して転載.
(見方)
横軸:経済発展水準をあらわす指標として一人あたりの所得水準
縦軸:n番目の子供が両親に与える効用と不効用の大きさを示す。n番目の子供の効用線(Un)は上記の内容から右下がりである。反対に不効用線(Dn)は右上がりである。
*一人あたりの所得がy*以下の低い水準であれば効用>不効用となり出生が起こる。所得水準がy*以上と成れば効用<不幸用となり出生が抑制される。
まとめ
- 子供を追加的に出生することによって得られる追加効用は減少し、追加不効用が増加することを示す。
- これによって所得水準が高い社会において出生率が減少する様子が証明できる。
→このモデルをライベンシュタイン・モデルと呼ぶ。
参考
開発経済学入門 - 名古屋大学 大学院国際開発研究科